丘の上にラウンドタワ−が見えてきた。塔の上部に灰色の「窓」がある。彼は車のスピ−ドを緩め「着いたよ」と言って、パ−キングに駐車した。「7月〜8月にかけて、多くの観光客がここを訪れるんだ。あそこに一軒家が見えるだろう。あれはB&Bなんだよ」と指さした。100m程先の丘の上に、ぽつんと一軒の小さい家が見えている。閑散としていて、周囲を見渡しても僕たち以外に生き物の姿は無い。静かと言うよりさびしい。周辺は綺麗に整備された公園になっている。入り口の塀の上のボードに、公園の説明が書かれている。道路際一帯に崩れた灰色の石塀が地上に突き出ている。中央に廃墟となった「教会講堂」の広くて高い石壁の残骸がある。灰色の石造りの塔で煙突のようだ。ラウンドタワ−は、底辺の直径が10m以上あるが塔への入り口はない。高さ20mほどのところに、石壁をくりぬいた小さな窓が2つ、さらに上部に3つある。窓は一辺が2m程度の小さなものである。塔の中に、どのようにして入るのだろうと不思議に思った。 ゴールウエイに来てから、このような急激な天気の変化にも随分慣れてきた。しかし雑草の生い茂った教会の廃墟と墓地、その陰気さはこの上ない。頭のすぐ上を、真っ黒い雲が激流のように飛んでいる。本当に速くて超低空の雲だ。暗い廃墟と墓地の中に、世界中の歴代の霊が集まっても不思議ではない。ドラキュラやフランケンシュタイン、それに、真冬には「雪女」も出てくるだろう。すっかり黒い雲に覆われてしまった。灰色の城壁や塔が黒色に変った。吹き始めた風に、草が髪を振り乱したように揺れている。日本のどこに行っても、これ程恐ろしい光景には出会ったことはない。車に戻ると、小粒の雨がフロントガラスに落ち始めた。「心配しなくても、大した雨は降らないよ」と言って私の気持ちを和らげてくれた。車は緩やかな丘を左右にカ−ブしながら、南西の方に向かった。後ろを振り返ると、すでにラウンドタワーの姿はない。「農道」が続く。すれ違う車は一台もない。20分ほど走ると、車は三叉路を右手(南西)の道に入って行った。低い雑草の生い茂る丘陵地が続いている。「平地」に降りて来たが人家はない。空が明るくなった。ラウンドタワーでは、黒い雲の下で霊達の宴会が続いているのだろうか。 |